ベテランは一級品を狙い、小粒のカラフルなアサリには目もくれません。一級品と呼ばれるアサリを追い求めます。そのアサリとは、色は黒っぽい焦げ茶色で、周りがほんの少し薄く黄色味帯びています。もちろん大きい。親指と人指し指で丸を作ったぐらいの大きさです。

 そもそも『島アサリ』と地元三河では重宝がられているブランドアサリとは、アサリの貝の模様と思い込んでいた私は「縞アサリ」と勘違いしていました。どんな縞のアサリが美味いのかと、ずっと思っていました。どうもこの島アサリとは島とか岩場の意味があるらしいのです。もちろん高値がついて料亭向きだそうです。佐久島に限らず、日間賀島や梶島など島の岩場で採れるアサリは美味しいですね。

 それからアサリの美味しい時期は、身がパンパンに大きくなってきます。その分、貝の殻は薄くなってくるので、採っていても殻が割れやすくなります。この時期が旬の真っ盛りだと思います。この薄殻のアサリの吸物が大好きで、残った汁をご飯にかけて口に掻き込むと人生の至福を感じます。

 三河湾のアサリは美味しいことで有名ですが、その中でも特に美味しいアサリは潮通しの良い場所で育った、石の多い場所で採れた物です。前浜(矢作川河口)のアサリは別格として、梶島やうさぎ島、日間賀島の岩場のアサリは美味しいです。島でなくても岩場のは美味しいですね。

 腕に自信がある達人、名人が集まるところは梶島です。渡船で渡り、以前はスタートの合図「よーいドン」で始める時間制限でしたが、今は量制限制になりました。ビックリするほど沢山採ってくるセミプロがいます。仲買に卸すそうです。解禁当初など渡船に乗るのも長蛇の列です。もちろん平日にも、会社の有給休暇を取ってまで解禁日に会わせて来る人もいます。

 前の日は興奮して寝れないとか・・・・。ベテランの採取カゴはアサリを入れる網袋に、チューブの浮き輪が付いていたりします。あるいは大胆にも名入りのスーパーで商品を入れる四角いカゴだったりします。何れにしろそのまま使わず、手を加えて使い易くしてある所がベテランらしい所です。これは他の事でも言えるようです。最新情報ですと梶島以外にもセミプロが集まる場所があるそうです。それは沖島(猿ヶ島)。・・・らしいです。

 潮干狩りの「通」の好む場所は、解禁日から4、5日で採り尽くされてしまいます。が、達人は次の作戦に出ます。人の掘っていない所を掘るのです。狭い場所でもそういう所があるのです。それは大石の周りです。ところでアサリ採りをしている人は不思議と女性の方が多いようです。昼間は暇であるという事もありますが、本能的な何かがあるような気がします。その逆で釣りは男性の方が多いという事は、貝と竿に何か関係あるのでしょうか・・・・・・?

 話はそれましたが、とにかく女性は大きな石は動かせません。男の力でやっと動かせるぐらいの石をひっくり返すと、その大石の下には見たことのない様な、大きなアサリが微笑んでいるのです。きっと、ハゼでいうとヒネハゼというか、まず魚屋さんではお目にかかれないような大きなアサリがあるのです。海が荒れても流されないように、そして近所のジモピーおばさんに捕まらないように大石の下の周りに隠れているのです。それも集団でこのアジトに潜んでいるのです。

 作戦その2。それは潮が引いた後のタイトプールです。この中の水を掻い出すのです。ですから、丈夫なバケツを用意しなければいけません。サイホンの原理を応用してホースで汲み出す方法もありますが、意外と時間がかかる上に珍しがって人が寄ってきて、ついでにアサリまで採っていく人がいるので、やっぱりバケツでこっそりと汲み出すのが良いようです。干上がったタイトプールはアサリにとって、ナイス隠れアジトとなっていて、小ザル一杯ぐらいの成果が期待できます。ただし誰かがやった後だったらミジメ。

 邪道ですが、海の中に立ち込んで手カギマンガンを持参して採っている「通」もいます。



番外編

 超ベテランは夜中に掘りに行きます。此処まで来るとベテランと言うよりも猛者と呼んだ方が良いのかもしれません。私は猛者ではありません。

 北風が吹く寒い季節に、「先んずれば人を征す。」とただ好きなだけなのに、言い訳を放って出かけるそうです。ただ単に好きなようだけですが・・・。私は行きません。潮干狩りの季節は春ですが、1月、戦いはもう始まっているようです。というのは、アサリ採りは潮の満ち引きに関係があるのです。満潮、干潮と言うように1日の間に潮位は変化しますが、大潮、小潮と言うように潮位は旧暦の月の間にも変化します。そして季節によっても同じ大潮でも潮位が変わるのです。

 冬の夜はよく干るのです。ものすごくよく干るのです。ついでに、風向きによっても干り方が違います。冬、よく干るのは夜中の12時頃なのです。冬の昼間はあまり干りません。春になると段々と昼間の方がよく干るようになるので、昼間潮干狩りに適した潮回りになるのです。

 だから発想の転換をして冬の夜に干潟に行けばいいわけです。1月の下旬、木枯らしの吹く中、そして粉雪の舞う中、10時頃家を出るのです。・・・だそうです。

 漁業権の微妙な関係でアサリを採っていい所としかられる所があります。当然採ってはいけないところでは採ってはいけません。が、堤防の内側には漁業権は及びませんし、河口とか隣同士の漁協の境などは、許されるわけで、ともかくその道の達人達が採っている隣に行って、「さむいねえ、どや、とれるかねえ」とあいさつします。

 「あんまりとれんぞお」などという先入者の暗黙の了承を得られれば強者達人の仲間入り、許されるのです。勝負は2時間。潮が引き始めるとアッと言うまに広大な干潟があらわれます。詳しいようですが私は行ってはいません。

 エビとか海鼠とか小魚が干潟の上にいます。当然真っ暗闇の中、頭にヘッドライトを点けるわけですが、先入の達人達は車用のバッテリーに船舶用の電球を1.5L生ビールのアルミの空き缶を加工した物を電球の傘にして、竹でアームを作り、有明海の泥の上を行くトロ箱のような箱の上に道具を載せているのです。

 寒いとお思いでしょうがそんな気持ちの余裕はありません。スキーに行って寒いのは当たり前、夜アサリを採りに行って寒いのも当たり前。とにかくアサリを掘らなくては。

 いわゆる普通の人はこんな世界がある事を知る由もないでしょう。真冬の、月にホンの数日のチャンスの、それも夜中に。わざわざ道具まで仕立てて。明日行こうと決めた日はなかなか寝付けません。丸狂の世界です。何がこうさせるのか分かりませんが。ただ言えることは面白いんでしょう。たぶん。

 軟弱なアウトドアなんかクソクラエ(失礼)「これが本当のアウトドアじゃ!!!」などと多少湾曲的に物事をとらえて。大きなアサリが出てきたとき『オオッ!』と宝物を発見したような心の高揚が病みつきにさせるのでしょう。「しょう」というのは私ではありませんということです。

 2時間でバケツ一杯が目標です。ところで、寒さ対策ですがスキーに比べれば大したことありません。やってることがジミなので寒そうですが、それは体感温度の問題で、たいしたことはありません。カッコイイと思い込めば何とかなるのです。「そう、これがアウトドアなんだ。時代の先端を俺は走ってる。」と思い込めば、心は温かくなってくるのです。『心頭滅却すれば 火もまた涼し。でも、火も恋し」です。精神面はともかく、形としては、軍手の上に厚手のゴム手袋をします。いや、しているそうです。アサリの握った感覚が微妙に狂うと言って、手袋をしない猛者もいますが私は猛者ではありません。

 防寒着は着古るしたスキーウエアを釣り用に払い下げ、さらに潮干狩り用に払い下げた物です。ゴム長靴の中にはインナーダウンシューズを入れ、ホカロン3個必携です。私は強者ではありません。

 バケツいっぱいの大漁に微笑み、鼻水を拭いて、寒さの限界まで挑戦した後、待っているのは、自然の恵みと、満天に広がる星空の素晴らしさ。冬空の星座を幾つか確認しつつ、温かいコーヒーで乾杯。となればいいのですが、次に待っている作業はアサリを洗う作業です。

 夜中の作業変かつ活用。石も混ざるし、泥だらけ。明日の昼には「タン・タ・カ・タン・タ・カ・タン・タ・カ・タン・タン」といいながら大きなアサリを七輪で焼き、貝が口を開いたら、醤油を一滴たらして、アツアツを頬張りながら、ワインとか吟醸酒なんて洒落た酒じゃあなくて、ワンカップ大関の燗でチビリとやりながら・・・・・・・・この為に漁港に立ち寄り、塩水の出る水道を拝借して再びゴム手袋をしてアサリをゴシゴシやるのです。たぶん夜中の2時か3時。これがアサリ採りのシーズン幕開けです。・・・だそうです。 
                
 



梶島へ渡るにはココで券を買う。
帰りはココでアサリを洗う。